小泉首相等が標榜する「新自由主義」って何? (2)
2005年 10月 09日
少しばかり、「新自由主義(ネオ・リベラリズム)」という思想が生まれるまでの歴史的経緯を
振り返ってみたい。
(私は経済的思想には疎いので、やや政治&政策的な観点からになってしまうが・・・)
ここに至るまでは、大まかに言えば、「自由主義(リベラリズム)<伝統的な自由主義>」→
「自由主義?(ニュー・リベラリズム)」→「新自由主義(ネオ・リベラリズム)」という経緯を
たどっている。
いわゆる「自由主義(リベラリズム)」<「伝統的なOR古典的自由主義」>は、
「個人が自分自身の判断に基づいて行動することを最大限に尊重する思想。政府をはじめ
とするあらゆる権力による個人の活動への干渉を排除し、市場経済を重視する」ものだ。
もともと自由主義は、17~8世紀に絶対王政などの政治権力や干渉から国民を解放
するための政治的な思想から始まっている。それゆえ、いかに国家の権力や干渉を抑制して
国民が自由に生活、活動できるようにするか主眼が置かれた。(国家からの自由)
憲法を作るのも、国家の統治の仕方を決めて好きにさせないため&国民の人権を保障する
ためであるし(民主主義や三権分立などもそのため)、いわゆる「小さな政府」や「夜警国家」
論もそこから生まれている。
そして経済的側面で言えば、私的財産権(所有権含む)が広く認められるようになり、
国民がその財産を守り、自由な経済活動を行なうためには、国家の干渉や規制はジャマ
であると。かつて国王が勝手にその時々の都合で税金や関税をかけたり、価格統制をしたり
経済活動や財産を規制したりしたこともあり、それを排除しようという意識が強かった。
それゆえ、国家は民間に介入せずに、できるだけ市場原理の自由競争に任せることが重要
だと考えられた。
ちなみに「小さな政府」とは、「国家が国民に対してできるだけ何もせず、国民の自由な判断
と活動に任せておくことが望ましい」という考え方である。下手に国家が国民のために何かしよう
とすると、却って国民の生活への干渉になり不自由になることも多い。だから、自己責任の原で、自分たちのことは自分たちで面倒を見るから、できるだけ何もせず放っておいてくれ、というこである。(これを突き進めると、国家は国外に対する防衛と国内治安維持の警備(夜回り)だけ
やっておけばよいという考えになる。これを「夜警国家」論と呼ぶ」。)
19世紀にはいり、自由主義は資本主義などと結びつき、さらに産業革命が起こり、各種の産業
や経済が大きな発展を遂げて行った。
しかし、その一方で国民の間では、どんどん経済格差が広がることになった。
当時は、身分や家柄、もともと資産を持つ者は、それ相当の教育も受けられたし、資本を
もとでに様々な事業を行なうことができた。しかし、そうでない者は資産家が持つ工場や大農場
や鉱山などで労働者として雇われるしかなく、場合によっては低廉な賃金で過酷な労働を課せ
られることになる。しかも高齢者、傷病者、能力の乏しい者などは解雇されてしまい、失業者が増加するようになった。
一般市民の中には生活は困窮する者も多く、治安も悪化して行った。
そのような中、「資本家は労働者から搾取して富を蓄えている。その富は労働者にも分配すべ
べきである(生産と分配の手段・方法の共有)」という考えの下に、社会主義思想が広まった。
そこで19世紀終わり頃から、イギリスを中心に、自由主義経済を維持しながらも、国家が弱者へ
の福祉や労働の場の提供などの社会政策を行なうことによって、実質的平等やバランスをはか
って行こうという考え方が生まれて来ることになる。これが、「ニューリベラリズム」と
呼ばれるものだ。
この思想は20世紀にはいり、2度にわたる世界大戦、世界恐慌などを経て、各国に広まった。
イギリスでは参政権の拡大にともなって「労働党」ができ、累進課税、相続税などが導入され、
それが国民の福祉に当てられるようになった。1940年代には「ゆりかごから墓場まで」という
スローガンまで出されるようになる。
アメリカでは、世界恐慌後の1930年代にニューディール政策を行なっている。これは国が
失業者雇用のために公共事業を行なったり、農業や各産業の生産を規制するかわりに援助を
したり、労働権を認めたりするような内容だった。
1919年に、第一次世界大戦で大敗を喫したドイツが、社会権を認めるワイマール憲法を制定
したことも、国民の社会権や国の社会政策を世界各国に意識させる契機になったと言われている。
<ちなみに「ニューリベラリズム」の訳語は、「自由主義」に対して「新自由主義」とされることもある
が、単に「自由主義」と記されていることも多いようだ。それは上述の「伝統的な自由主義」の
問題点を克服したこの形での「自由主義」が世界に各国に普及したからかも知れない。>
その後、戦後復興を遂げた日本も含め、世界の先進国と呼ばれる各国は、それ相当に順調に
経済成長を遂げて来た。しかし、1970年代に2度にわたるオイル・ショックがあり、各国の経済
成長に停滞をもたらすことになる。しかも、人口の増加、社会政策の拡大により、国家の財政負担
が増大し、その早急な対策が望まれることになった。
そこで、「新自由主義(ネオ・リベラリズム)」が台頭して来たのである。これは、時に
「復興自由主義」とも呼ばれるが、もう一度「伝統的な自由主義」の考え方に戻り、国家が過度な
干渉、規制をやめ、市場原理による自由競争を重視した政策に戻ろうと。そのためには、「小さな
政府」に戻った方がよい。そうすれば、国の経済も活性化するし、行政サービスや社会政策も
縮減でき、国家の財政負担も減ると考えたのだった。
この「新自由主義」と「伝統的な自由主義」の違いは、後者が政治的な側面が強かったのに対し
後者が経済的な側面が強いというところにある。
1980年代にアメリカのレーガン大統領や、イギリスのサッチャー首相が、「レーガノミックス」、
「サッチャリズム」と呼ばれるような政策をとったのも、この思想に基づくと言われている。
また日本では、80年代に中曽根元首相が中心となって、三公社であった国鉄(現JR)、電電
公社(現NTT)、専売公社(現JT)の民営化などの行政改革を進めたが、これも新自由主義思想
の現われと言われている。
90年代にはいり、東西冷戦も完全に終了し、IT化も含め通信・交通網が広がったことも手伝って
国際化(グローバリゼーション)が急激に進んで行った。同時に、経済の国際競争も激化し、国の
壁を越えての投資、金融も盛んになって行った。さらに、今まで経済的に後進国だと言われて
来た国々も台頭して来つつある。この経済競争の中で、国や企業が生き延びて行くためにはどう
すべきか・・・そこから、「新自由主義」は世界のトレンドとなり、日本でもこの思想を標榜する者が
政界、財界などに増えて行ったという。
<つづく> THANKS
とりあえずさんのところにも言ってまいりました。
blog-bluesさんの落語解説(?)も読ませて頂きました。
私はマルクスとかレーニンとか思想的な話は全くわからないので、
議論に参加するのはチョット難しいのですが・・・。
憂いていることは、同じようにも思うので、お勉強させて頂いて、
自分なりに考えてコメントをできたらいいな~と思っています。
「富める者はよりゆたかに、貧しいものはより貧しく」なるのが
ネオリベラリズムです。市場原理主義。悪魔のサイクルです。