BPOが政府与党を批判した意見書の中身。政府が都合よく利用する放送法の真意
2015年 11月 13日
【*1、*2などの関連記事は、記事の最後にあるMoreの部分にあります。】
先週アップした『NHKへの政治介入、圧力をBPOが批判~クロ現のやらせ、打ち切り問題』の関連記事を・・・。
今月6日、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会が、NHK番組「クローズアップ現代」のやらせ問題に関する意見書を発表したのだが。その中で、安倍内閣や自民党のNHKへの対応に関して、政治介入であると批判を行なったことが注目を浴びた。(**)
今回は、BPOの意見書の中で、その政府与党の批判を行なった部分をご紹介したいと思うのだけど・・・。その前にちょこっと書かせて欲しいことがある。(・・)
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この批判を受けて、安倍首相らは、早速、反論を行なったのであるが。彼らはどうも、自分たちが何故、批判を受けたのかわかってないようなのだ。(~_~;)
『放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会が6日に発表した意見書で、NHK番組「クローズアップ現代」の過剰演出問題をめぐる高市早苗総務相や自民党の対応を批判したことが、10日の衆院予算委員会で取り上げられた。
高市氏は文書による厳重注意の根拠として、「報道は事実をまげないですること」とした放送法第4条などの規定を挙げている。この点について、意見書は「放送事業者が自らを律するための『倫理規範』であり、総務相が介入する根拠ではない」と主張。同法が保障する放送の「自律」を侵害した、としている。
安倍晋三首相は10日の予算委で「単なる倫理規定ではなく法規であり、法規に違反しているのだから、担当官庁が法に則(のっと)って対応するのは当然」とBPOに反論した。
さらに意見書が「政権党による圧力」とした自民党情報通信戦略調査会の事情聴取についても、「NHK予算を国会で承認する責任がある国会議員が、事実をまげているかどうか議論するのは至極当然だ」と語り、正当性を強調した。(朝日新聞15年11月10日)』
『菅義偉官房長官は記者会見で、高市早苗総務相によるNHKへの厳重注意を意見書が批判したことについて、「放送を所管する立場から必要な対応を行った。指摘はあたらない」と述べた。自民党の谷垣禎一幹事長も同日の会見で、NHK幹部から事情を聴いた同党の対応が「圧力」とされたことについて、「報道の自由があるからといって、やらせに一切口をつぐむのが良いとは思わない」と反論。今後、同様な問題でNHKや民放の幹部を呼ぶのかと問われると、「実情を伺うことはある。ないとは申し上げない」と語った。
一方、政府・与党の姿勢に対し、民主党の枝野幸男幹事長は9日、記者団に「行政と与党は言論報道に対して最も抑制的でなければならないというイロハの『イ』がわかっていない」と批判した。共産党の山下芳生書記局長も会見で「政府や政権与党が(放送に)口を挟むことは戦前の教訓を踏まえない誤った対応だ」と述べた。(朝日新聞15年11月9日)』
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mewは、BPOのHPに載っていた意見書(コチラ)を読んでみたのだが。「おわりに」の部分に記された彼らの訴えは、心がぐぐっと来るものがあった。(++)
安倍二次政権が始まってから、官邸&自民党はメディア支配を強化。とりわけ、TV局に対しては放送法をタテにとる形で(&暗に免許取消の圧力をかけるような感じで)、政府与党に不利になるような報道の自粛を促しているようなところがある。(-_-)
しつこく書いて申し訳ないのだが。メディアの最も重要な役割は、主権者である国民に代わって政府を監視し、国民に民主主義の基盤となる国政に関する情報を伝えることにある。そして、国政に関する情報には、政府や国政に関する問題点など都合の悪いものも含まれることは言うまでもない。(・・)
もっと言えば、メディアはいざとなれば、国民が強い権力を持つ政府にだまされたり、利用されたりしないように、政府よりもむしろ国民の側に立って、常に政府に批判的な視点を持ちながら、取材や報道を行なったり、国民と共に戦ったりすべき使命を持った機関なのである。(**)
<だから、「ペンは剣より強し」という言葉があるし。そのために憲法の「表現の自由」や「報道・取材の自由」が認められているんだよね。>
http://mewrun7.exblog.jp/22640903/
ところが、安倍首相らは、メディアが政府に対して批判的な報道、政府にとって不利益、不都合な報道を行なうと、放送法を持ち出して来て、「不偏不党」の報道になっていないと問題視をして、メディアに様々な形で圧力をかけることに。
その結果、「官邸に下手に睨まれるとマズイので、政治関係の報道はできるだけ減らしちゃおう」というTV局やスタッフが増えて。昨年の衆院選では、選挙に関する放送時間が1/3に減ることに。安保法制に関する報道も十分になされないまま、終わってしまったのだ。(-"-)
<関連記事・『TVが選挙ネタを逃げる~何と放送時間が前回の1/3に激減&安倍自民の監視、支配に屈する』>
でも、放送法の「不偏不党」というのは、第一義的に、戦前、メディアが政府の言いなりになって報道を行なって来たことへの反省をこめて「権力者である政府の意向に沿った、政府側に偏った放送はしません」という誓いを示したものであるわけで。
今回のBPOの意見書の中では、そのことを主張している部分が印象深かった。また、放送に携わる者自身が干渉や圧力に対する毅然とした姿勢と矜持を堅持するように求めた部分も、力強く感じられるものがあった。(**)
では、その部分のご紹介を・・・。
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BPO NHK総合テレビ『クローズアップ現代』"出家詐欺"報道に関する意見
『Ⅵ おわりに
戦後70年の夏、多くの人々が憲法と民主主義について深く考え、放送もまた、自らのありようを考えさせられる多くの経験をした。
6月には、自民党に所属する国会議員らの会合で、マスコミを懲らしめるには広告料収入がなくなるのが一番、自分の経験からマスコミにはスポンサーにならないことが一番こたえることが分かった、などという趣旨の発言が相次いだ。メディアをコントロールしようという意図を公然と述べる議員が多数いることも、放送が経済的圧力に容易に屈すると思われていることも衝撃であった。今回の『クロ現』を対象に行われた総務大臣の厳重注意や、自民党情報通信戦略調査会による事情聴取もまた、このような時代の雰囲気のなかで放送の自律性を考えるきっかけとするべき出来事だったと言えよう。
2015年4月28日、総務大臣はNHKに対し、『クロ現』について文書による厳重注意をした。番組内容を問題として行われた総務省の文書での厳重注意は2009年以来であり、総務大臣名では2007年以来である。NHKが調査報告書を公表した当日、わずか数時間後に出された点でも異例であった。
総務大臣は、厳重注意の理由は「事実に基づかない報道や自らの番組基準に抵触する放送が行われ」たことであり、厳重注意の根拠は、放送法の「報道は事実をまげないですること。」(第4条第1項3号)と「放送事業者は、放送番組の種別及び放送の対象とする者に応じて放送番組の編集の基準を定め、これに従つて放送番組の編集をしなければならない。」(第5条第1項)との規定だとする。
しかし、これらの条項は、放送事業者が自らを律するための「倫理規範」であり、総務大臣が個々の放送番組の内容に介入する根拠ではない。
放送による表現の自由は憲法第21条によって保障され、放送法は、さらに「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。」(第1条2号)という原則を定めている。
しばしば誤解されるところであるが、ここに言う「放送の不偏不党」「真実」や「自律」は、放送事業者や番組制作者に課せられた「義務」ではない。これらの原則を守るよう求められているのは、政府などの公権力である。放送は電波を使用し、電波の公平且つ能率的な利用を確保するためには政府による調整が避けられない。そのため、電波法は政府に放送免許付与権限や監督権限を与えているが、これらの権限は、ともすれば放送の内容に対する政府の干渉のために濫用されかねない。
そこで、放送法第条2号は、その時々の政府がその政治的な立場から放送に介入することを防ぐために「放送の不偏不党」を保障し、また、時の政府などが「真実」を曲げるよう圧力をかけるのを封じるために「真実」を保障し、さらに、政府などによる放送内容への規制や干渉を排除するための「自律」を保障しているのである。これは、放送法第1条2号が、これらの手段を「保障することによつて」、「放送による表現の自由を確保すること」という目的を達成するとしていることからも明らかである。
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「放送による表現の自由を確保する」ための「自律」が放送事業者に保障されているのであるから、放送法第4条第1項各号も、政府が放送内容について干渉する根拠となる法規範ではなく、あくまで放送事業者が自律的に番組内容を編集する際のあるべき基準、すなわち「倫理規範」なのである。逆に、これらの規定が番組内容を制限する法規範だとすると、それは表現内容を理由にする法規制であり、あまりにも広汎で漠然とした規定で表現の自由を制限するものとして、憲法第21条違反のそしりを免れないことになろう。放送法第5条もまた、放送局が自律的に番組基準を定め、これを自律的に遵守すべきことを明らかにしたものなのである。
したがって、政府がこれらの放送法の規定に依拠して個別番組の内容に介入することは許されない。とりわけ、放送事業者自らが、放送内容の誤りを発見して、自主的にその原因を調査し、再発防止策を検討して、問題を是正しようとしているにもかかわらず、その自律的な行動の過程に行政指導という手段により政府が介入することは、放送法が保障する「自律」を侵害する行為そのものとも言えよう。(下につづく)
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もっとも、放送が他からの命令や指導によってでなく自由と自律の下で番組の質を維持し向上させるには、不断の自己検証と努力に加えて、放送局の独善に陥らないための仕組みが必要であろう。そのためにこそ、BPO(放送倫理・番組向上機構)が
ある。当委員会は、2007年に設置されて以来、番組内容に問題があると判断した場合には、勧告・見解や意見を公表して放送局と放送界全体に改善を促してきたが、これを受けて各放送局は社内議論を深め、正確な放送と放送倫理の向上のための施策を定めるという循環が生まれてきている。政府もまた、このような放送の自由と自律の仕組みと実績を尊重し、2009年6月以降は、番組内容を理由にした行政指導は行わなかった。今回、このような歴史的経緯が尊重されず、総務大臣による厳重注意が行われたことは極めて遺憾である。
また、その後、自民党情報通信戦略調査会がNHKの経営幹部を呼び、『クロ現』の番組について非公開の場で説明させるという事態も生じた。しかし、放送法は、放送番組編成の自由を明確にし「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない。」(第3条)と定めている。ここにいう「法律に定める権限」が自民党にないことは自明であり、自民党が、放送局を呼び説明を求める根拠として放送法の規定をあげていることは、法の解釈を誤ったものと言うほかない。今回の事態は、放送の自由とこれを支える自律に対する政権党による圧力そのものであるから、厳しく非難されるべきである。
当委員会は、この機会に、政府およびその関係者に対し、放送の自由と自律を守りつつ放送番組の適正を図るために、番組内容に関しては国や政治家が干渉するのではなく、放送事業者の自己規律やBPOを通じた自主的な検証に委ねる本来の姿に立ち戻るよう強く求めるものである。
また、放送に携わる者自身が干渉や圧力に対する毅然とした姿勢と矜持を堅持できなければ、放送の自由も自律も侵食され、やがては失われる。これは歴史の教訓でもある。放送に携わる者は、そのことを常に意識して行動すべきであることをあらためて指摘しておきたい。
今回の問題を受けて、NHKは、再発防止のためにいくつかの具体策を公表した。この中で、NHKは、本来は実名を原則とするインタビューを匿名とする場合の「正確さと事実確認」を徹底するため、緊急の討議・勉強会で「匿名での放送の原則」を確認し「匿名での取材・制作チェックシート」を導入するとしている。また、試写などでのチェックの強化のために「取材・制作の確認シート」を活用するとともに、ジャーナリストとしての再教育も実施するとのことである。問題の背後にある要因を取り除くために、いずれも一定の効果は期待できるであろう。
しかし、放送局に不祥事が起きると、再発防止策はどうしても制作現場の管理を強化するという方向に傾きがちである。新たな防止策によって報道現場の管理が必要以上に強化され、「情報源の秘匿」を損なったり事件の真相に迫る取材活動の萎縮を招く
ことのないよう十分な配慮を期待する。
また、今回の問題が生じた原因のひとつに、番組スタッフ間の率直な対話の欠如があった。真実に迫る取材は報道番組の命であるが、その成果を視聴者に分かりやすく伝える演出も、欠くことのできないものである。両者が結びつき、番組が深化し向上するためには、番組制作に携わる者の間での真に率直な対話が必要である。現場のありようや空気を劇的に変化させる即効性の特効薬はないであろうが、番組にかかわる者すべてが心がけ、真摯な対話が活発に行われるように体制を整えていくべきである。
『クローズアップ現代』は、「最終報告書」が公表された4月28日の放送を、すべてこの問題の検証にあてた。
キャスターは、番組の最後を「22年間この番組が続いてきたのは、多くの視聴者の方々の番組への信頼という支えがあったからこそであり、今回のことはそのことを損ねてしまいました。この信頼を再び番組の支えとしていくためには、これからの一本一本の番組を今回の調査報告の指摘も踏まえて、真摯な姿勢で制作し続けていくことしかありません」と結んだ。
調査報告書自体の不十分さはさておき、番組内で説明を尽くそうとする自律的な検証の姿勢と真摯さは十分に評価されるべきであろう。 今回の問題によって番組の活力が削がれることなく、キャスターの言葉どおり、視聴者に信頼され社会の真実に迫る意欲的な番組が今後も生み出されていくことを強く期待している。 』 以上
THANKS