17日の『岸田は解散命令を請求できるのか~支持率回復目当てはダメ。要件、根拠を明確にして請求を』の続報を・・・。
今週にはいって、衆院予算委員会では、本格的な審議が始まった。<念のために書くなら、野党は旧統一教会のことだけでなく、物価高なども扱っている。>
17日の記事にも書いたように、昨日の国会で、やはり大きな争点になったのは、宗教法人に「解散命令」を請求するためには「刑事上の法令違反が必要かどうか」ということだった。(**)
少し小難しい話になってしまうのだが・・・。宗教法人法では解散命令請求の要件の一つとして「法令違反で著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」をしたことを挙げている。
宗教法人を所轄する文科省下の文化庁は、これまで裁判所が解散命令が認めた2例(オウム真理教、明覚寺)では、刑法違反が大きな根拠になっていたことを重視。法令違反と言えるためには、刑事法に違反することが必要だと解釈している。(・・)
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政府が慎重になる背景には、日本が戦前、他の主教を弾圧、迫害したという黒歴史がある。
明治憲法も「日本臣民は、安寧秩序を妨げず、かつ、臣民としての義務に背かない限りにおいて、信教の自由を有する」と条件付きで「信教の自由」を認めていたのだが、政府は帝国主義、国家主義に傾倒し、天皇を現人神とする国家神道を強化して行くにつれて、多数の宗教団体や関係者を弾圧、迫害したという事実が残っているのである。
たとえば・・・『特高警察月報1937(昭和12)年12月には「仏教方面においても次のごとく戦争行為をもって仏戒殺生戒を犯すものなりとしてこれを罪悪視し……反戦または反軍的言説を弄し……僧侶、布教師等の誤れる言説はその大衆におよぼす影響とくに少なからざるものあるべきをもって、これが視察取締については格別の注意を要する」とあり、私服特高が葬儀や法要も監視しました。岐阜の真宗寺院の竹中彰元住職らもこうして逮捕、投獄されました。仏教徒の組織的な抵抗としては「仏国土の実現」などを掲げた新興仏教青年同盟がありましたが、1937年に「国体の変革」を企図したとして百数十人が検挙投獄され、僧侶資格を奪われるなどの弾圧をうけました。
内務省極秘文書「要注意宗教活動の現況」には「仏教基督教もしくは宗派神道等にありても、そのほとんど全部が教義教理中にかかる反国体思想の素因を内包せざるはなし」とあり、太平洋戦争突入の前年に成立した宗教団体法で信教の自由は圧殺されました。翌年に改悪された治安維持法による宗教関係弾圧事件は1年で1011件と記録されています。
戦争末期では、創価教育学会(現創価学会)の幹部が、「今上陛下こそ現人神」(牧口常三郎)という立場でしたが、「神宮の尊厳冒涜(ぼうとく)」などで逮捕、投獄されています。(赤旗06年4月5日』
今でも法学者や宗教団体等の中には、解散命令の要件の解釈を安易に拡大すると、その時々の政府の恣意で宗教団体を弾圧したり、信教の自由を脅かしたりすることにつながりかねないと、警戒感を示している。(++)
一方、全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)の弁護士や一部の識者は、宗教法人法は「法令違反」を刑事法違反に限っておらず、民法上の不法行為も対象にすべきだと主張。
オウム真理教をめぐる高裁決定(1995年)でも、解散命令の対象として、「反道徳的、反社会的存在」などが挙げられていると指摘。過去の民事裁判で、旧統一教会の不法行為や使用者責任が認定されていることを根拠に、解散命令の要件を満たしていると主張している。(・・)
これは本当に難しい問題だと思うし。岸田首相も、「質問権」行使に言及したものの、かなり苦慮している様子。昨日の国会でも、激しい論戦が繰り広げられていた。^^;
『予算委員会2日目の国会では、旧統一教会への『解散命令請求』の基準をめぐり、議論がたびたび紛糾しました。
立憲民主党・長妻昭政調会長:「解散請求は要件の1つで『法令違反』とある。その法令違反は刑事に限ると、この解釈を変えない限り、いくら調査しようが解散請求できない。解釈を変えたんですか」
岸田総理:「最高裁で確定した判決において示された考え方、これは政府としても考え方は変わっておりません」
岸田総理は、1996年のオウム真理教への解散命令の際に、最高裁で確定した判決を受けて、政府が“刑事事件に限る”としてきた要件を踏襲すると表明しました。
立憲民主党・長妻昭政調会長:「民法の不法行為、これは入らないという理解ですね」
岸田総理:「民法の不法行為、これは入らないという解釈です」
立憲民主党・長妻昭政調会長:「これではっきりしました。私はこれ信用できません。そういう解釈に固執する限り、刑事訴追して確定判決が出る、いくつも出る、それを待つことになる。私は何年もかかると思わざるを得ない。総理の本気度が問われますので」(ANN22年10月18日)』
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ただ、岸田内閣は「法令違反は刑事に限る」という解釈を踏襲しながらも「旧統一教会は刑事法違反に問える可能性がある」と、いう方向で解散命令の請求を検討したいと考えているようだ。
『岸田総理は、旧統一教会をめぐっては、今後、刑事事件につながる可能性があると説明します。
岸田総理:「合同相談窓口において、1700件の相談が寄せられた。そのなかには警察等につないだ案件が含まれている。警察につないだような案件に、刑法をはじめ、様々な規範に抵触する可能性はあると認識している。それも含めて手続きに入った」(同上)』
『ただ、17日に取りまとめられた河野消費者担当大臣が設置した検討会の提言では、民事裁判が数多くあることを理由に、質問権を行使するよう求めていました。
18日の総理の発言に対しては、政府内からも戸惑いの声が上がっています。
政府関係者:「『あれ?きょうになって答弁が変わった?』と思った。被害の救済のためには、解散請求が大事。河野大臣は自分が諮問した検討会議の提言内容をどう実現するべきかと動いている」(同上)』
『予算委員会の後に開かれた立憲民主党の会議。文科庁の担当者は「総理の答弁が矛盾しているのではないか」と問われました。
文化庁担当者:「官邸には、私たちの考え方を説明している。(総理は)誤っておっしゃったのではないと思っている。何かに違反しているのかどうか、はっきり分かる刑法的な世界と、民法的な世界との差はやはりあるんじゃないか」
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消費者庁・有識者検討会は、ポイントとして「旧統一教会は民事裁判において、組織的な不法行為に基づき、損害賠償を認める裁判例が複数積み重なっている」ことを挙げています。
しかし、岸田総理は18日の国会で、解散請求の根拠となる“法令違反”について「民法上の不法行為は入らない」と答弁しました。
『民法上の不法行為』とは、霊感商法や多額の献金の被害など、過去に民事裁判で、旧統一教会の組織的な関与が認められた行為で、これらが「解散命令の要件となる法令違反には含まれない」とも受け取れる解釈を示しました。
検討会メンバー・菅野志桜里弁護士:「旧統一教会は民法上の組織的な不法行為が問題。それが外されてしまうと“解散請求”の前提や、調査する意味合いすらなくなってしまう。雲をつかむような話になってきた」としています。(略)
検討会メンバー・菅野志桜里弁護士:「新しく刑事事件の可能性があることをにおわせることで、これまで積み上げてきた民事事件の裁判例を外そうとしているなら、深刻な答弁変更だ。確定判決が出るまで何年もかかるため、現実的ではない。朝令暮改で、17日は一歩進んだのに、一日経って引き返したという印象だ」 (同上)』
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mew個人は、「法令違反」には個人の財産権や諸人権を著しく侵害するような民法上の不法行為も含めていいのではないかと考えているのだが。<明らかな刑法違反があれば別だが。強引に刑法違反に結びつけるよりはマシだとも思う。>
ただ、これは憲法上の人権が関わる大きな問題なので、先日も書いたように、岸田内閣は、支持率アップのために世論に流されるのではなく、きちんと要件やその基準、根拠を明らかにした上で、解散命令を請求できるようにして欲しいと。また政府も野党も、国民にわかりやすい形で説明や議論をして欲しいち願っているmewなのである。(**)<ちなみにmew個人は、無宗教。>
THANKS